連載小説 マスター不在 熊野盛夫

第五回 展開

 

肩をたたいた男はすばやい動きで胸のポケットから名刺
を出した。
 
U・M・A研究秘密機関
  崎山 吉夫
 
見たこともないそのU・M・Aというローマ字の綴りに
保険の勧誘かと思った私は「あ、間に合っています」と
思わず言ってしまった。
 
名刺をだしたその男は黙ってうなずいた後、フゥーッと
息をしてこう言った。「信じてもらえないかもしれない
話をしますが、私の話は真実ですから。単刀直入に申し
ますが、この店のマスターは、実は、人間ではありませ
ん。」
 
まだ状況をつかみきれていない常連客の黒沢が言った。
「なんか、難しそうな話の途中で申し訳ないけれど、マ
スターどこ行ったの?」
 
私はまるで悪い夢の中にいるような気がして胸が悪くな
ってきた。けれどそんなことを気にする様子もなく黒沢
は続けてきた。
 
「なんかさー、マスター変なパンツの話してたじゃん。
あの話おもしろくってまた聞きにきたんだけど・・・。」
 
「えっ!」U・M・Aの崎山が身ものりだして大声を出
した。「やっぱり・・・。でそのパンツは何色だったんです
か!」
 
激しく詰め寄るU・M・A崎山に黒沢は一瞬たじろいたが、
キリリッとした目線でこう応えた。「それは言えない。」
 
 
                       つづく

 

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